フィリップの2通の手紙

母上、

アントワープも寒くなってきたと思いますがお元気でしょうか?

ポールがひどい肋膜炎にかかってローマに到着しましたが、
ドイツから来ているヤン・ファーベル医師の治療のおかげですぐに元気になりました。ご安心ください。
今は遺跡を見学したり、建設中の教会に設置される最新の絵画を観察したり、
教会の装飾にも興味を持っているようで、毎日出かけています。

私はローマ大学での学びも終わり、学位をいただきました。
フランドルからのリシャルドー、ローマ大使の秘書をする合間に、弟さんの家庭教師も続けています。

昨日名門ピーザ大学からお誘いを受けました。
ありがたいお話なのですがよく考えてからお返事するつもりです、

御元気でお過ごしください、
あなたのフィリップ

1605年秋の日に

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リピシウス教授、ルーヴァン大学気付

フィレンツェ・ピッティ美術館にある『4人の哲学者』 右から一人おいて、フィリップの師でスコラ哲学者のリプシウス教授、兄フィリップ、背後にルーベンス。後ろにセネカ像。

フィレンツェ・ピッティ美術館にある『4人の哲学者』
右から一人おいて、フィリップの師でスコラ哲学者のリプシウス教授、兄フィリップ、背後にルーベンス。後ろにセネカ像。

御元気にお過ごしでいらっしゃいますか

ローマにおりますと先生にご教授いただいたスコラ哲学の神髄が体に溶け込んでまいります。
セネカの胸像を手に入れました。いつも近くにいたいと思っています。

おかげさまでローマ大学で学位を授与されました。
今は アスカニオ・コロンナ枢機卿の書物係を務めております。

名門ピーザ大学からお誘いを受けました。
そこでローマ時代の風習についての研究をするようにとのことでした。

アントワープに一人母を残していますので気がかりもございます。

ご報告かたがた
あなたの忠実なる弟子、フィリップ ルーベンス

 

※リピシウス教授は、ラテン語の学者であり、スコラ哲学の権威でもある。
ルーベンス兄は弟子であり、ポールもこの仲間の一人としてスコラ哲学の知識を得て、
ギリシャ、ローマの古典美術の鑑賞に大いに役に立った。
後に名門ルーヴァン大学の教授となる。

母に宛てたローマからの手紙~その2

母上、

いま、フィリップ兄さんと一緒に暮らすことができました。
スペイン広場に近いストラーダ デ・ラ クローチェに快適な一軒家です。
これも母上の援助のおかげと深く感謝いたします。

この頃は ゴンザーガ家の財政もかなり苦しいらしく私へのお給金も滞りがちなのです。
そのことは私には都合の良いことでもあるのです。
私を縛り付けず自由にローマにいることを暗黙の裡に許してくださっているからです。

ボルゲーゼ枢機卿、ジェノヴァ出身のジャコモ・セッラ僧正というような政治力もお金もある偉い方々にお会いして、
美術品のコレクションを拝見できることはローマにいなくては出来ないことです。
感激しております。

ポールより、     1605年

多くの芸術家のパトロンであったボルゲーゼ枢機卿の別荘がボルゲーゼ美術館として多くのコレクションを展示

多くの芸術家のパトロンであったボルゲーゼ枢機卿の別荘。現在はボルゲーゼ美術館として多くのコレクションを展示。

※若きルーベンスが故郷にあてた手紙を想像して書いています。

母に宛てたローマからの手紙~その1

母上、ご無沙汰をして申し訳ございません。お元気のことでしょう。

私は今、待望のローマに来ております。
ヴィンチェンツォ公のお計らいで ローマで作品の模写の勉強をしています。
父上もここで勉強したと思うと感慨深いものがあります。

古代彫刻にも驚かされますが歴史上の人物が大変身近に感じられることにもびっくりしております。

コロッセオから望んだネロ皇帝の御殿跡地

コロッセオから望んだネロ皇帝の御殿跡地

例えば 聖書に出てくる残虐なネロ皇帝です。
彼は皇帝ですから広大な土地を所有し、大御殿に住んでいたことが目で見て分かります。

コロッセオ

コロッセオ都市計画を企画するため、ローマの街に大火を起させ、それをキリスト教徒のせいにして迫害しました。

コロッセオはエルサレムから2万人のキリスト教徒を奴隷として連れてきて2年間で建造されたと聞きました。
そのコロッセオはキリスト教徒の迫害の場所であったり、戦車の競争をしたり、ライオンの餌食になるキリスト教徒の場所だったようです。
そのころに生きていなくてよかったと思います。

 

ヴァチカンにある古代彫刻

ヴァチカンにある古代彫刻

ローマには古代ギリシャの美術品がたくさん来ています。
今はオスマントルコに支配されているので、アテネにも行けませんのでここで見られるのは幸いです。
彫刻像が物語になっていて動きがあり、迫力があるのです。
一生懸命模写をしています。縦、横、斜め、上、後ろからとあらゆる方向から描くことをしています。
いくら紙があっても足りないくらいです。楽しくて仕方ありません、

母上もどうぞお体気を付けてください、

あなたのポールより、
1601年秋

※若きルーベンスが故郷にあてた手紙を想像して書いています。

母に宛てたフィレンツェからの手紙

母上様、

その後お変わりなくお元気ですか?

僕は思いがけず、大公にお供をしてフィレンツェに来ています。夢のようです。

Firenze

メディチ家の公女がフランス王アンリ4世に嫁ぐ結婚式に参列したのです。
国王自身ははここまで来られなくて、代理人が指輪を届けに来ました。
メディチ家の御姫様がフィレンツェからパリへと離れるという事で、町を挙げてのお祝いムードでした。
結婚式は、花の聖母寺院で厳かに豪華に盛大に行われました。

マリード メディシスとアンリ4世の結婚式が行われたドゥオモ

マリード メディシスとアンリ4世の結婚式が行われたドゥオモ

今回お輿入れのマリー公女の前に、もう一人メディチ家からフランスに嫁いでいる女性がいることを知りました。
彼女は苦境を乗り越えて後にカトリーヌ大公妃となったそうです。母上はごぞんじですか?
お輿入れの時にはメディチ家から召使い、香水師、料理人など多数連れて行ったそうです。
ジェラート(アイスクリーム)やナイフやフォークも持参したそうですから、フランスはフィレンツェよりも何事も遅れていたのでしょうか。

フィレンツェは色とりどりの大理石が取れるところで、建築物の外装、内装にふんだんに使われているのでとても豪華で美しいです。
母上にもお見せしたいです。

ウフィッツ美術館は10年くらい前から少しずつ公開されていますが、
御計らいでボッティチェリ、ラファエッロ、レオナルド・ダ・ヴィンチなどの描いた名画、名彫刻を見せていただきました。

ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』

ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』

ラファエロ『カルデリーノの聖母』

ダヴィンチ『受胎告知』

ダヴィンチ『受胎告知』

 

 

 

 

 

美しいものが見られて幸福です。興奮の連続です。

またお便りしますね、ご報告まで

貴方のパウルより

※若きルーベンスが故郷にあてた手紙を想像して書いています。

友に宛てたヴェネツィアからの手紙

Rubens_selfpotrait* 親愛なる友 モレトス君、

ヴェネチアに着きました。活気に満ちた雰囲気を充分楽しんでいます。

お知らせしたいことがあります。ここでは印刷機が大変な働きをしています。印刷術も進んでいます。

当地は宗教分離している自由国家ですので ビザンチン帝国に集まった中東から古代資料が自由に入ってきます。
あらゆるものがここで印刷されるのです!
あらゆる分野のもの、ギリシャの哲学、詩、イスラム文化、歴史書も印刷されています。

又B5版という形の本ができているのには驚きました。携帯に大変便利でポケットに入ることから普及しています。

是非一度、君も勉強にきて故郷で役立ててください。

パウルより

(* モトレス・・・ポールの3年下級生の学校友達。親はプランタンという大きな印刷会社を経営している。)

※若きルーベンスが故郷にあてた手紙を想像して書いています。